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Vol.5 ヴァン ムッシュ アボワール 太田和保さん

img_vol5銀座3丁目のガス灯通り。ちょっと重々しい扉を開けると、キャンドルの灯が暖かく迎えてくれる、落ち着いた雰囲気のワインバーがあるのをご存知ですか?
 そう、ここが今回のインタビューを引き受けて下さった、太田和保さんのお店「ヴァン ムッシュ アボワール」です。ここのお店のキャッチフレーズは、「状態の良いワインとアットホームなホスピタリティが信条。とにかくおいしく気分良くを大切にしています。」とのこと。この言葉通り有言実行の太田さんです。

今回は、太田さんのお考えや言葉を、あえて‘太田の法則’とまとめてみました。
では、リレーインタビューの第5回、どうぞお楽しみ下さい。


 

 


 

 

1.太田の法則その1「コンディションを大切にしろ!」
グルたま(インタビュー担当スタッフ:以下同):今回はよろしくお願いいたします・・・。ワインバーのオーナーとお聞きしていますので、同じ業界の大先輩ですね。実は、大変緊張しています。
太田(敬称略:以下同):うちのお客様はMR、ドクター、弁護士などが多いです。個人的にはクラブなどには行きませんが、陶芸家の先生に「銀座で商売するんだったらクラブの女性とも仲良くなりなさい」と言われて紹介されました。これをきっかけに、ホステスさんがアフターでお見えになったり、うちのまかないを食べに来たりして下さいます。

 

グルたま:まかないですか?
太田:6時30分頃に作るまかないは、クラブのお姉さんも他のお客様も、食べにいらっしゃるんですよ。
豚丼、ハヤシ、カレー、炊き込みご飯などいろいろと好評ですね。
僕は、楽しみは飲み食いをすること。美男薄命っていうでしょ、余命幾ばくもないから飲みたくないものは飲まないし、そういうおつきあいはしません。

 

グルたま:どんなお店に行かれるのですか?
太田:出ている料理に合ういい状態のお酒を置いている店は、銀座でもほとんどないですね。6丁目にある天ぷらの「いわ井」さん、あそこぐらい。
ワインを提供する上でいろいろな蘊蓄話もありますけど、大前提が成立していて初めて語られるべきなんですよ。なんだかわかりますか?ソムリエさん。

 

グルたま:どきっ!えっと~。
太田:これがすんなり出てこないとね。「コンディション」です。
瓶に入って以降の温度、湿度、振動・・・。運んですぐに開けるなどもってのほか、この点で言えばボジョレーヌーボーなどほとんど冗談そのものですね。ガメイという、ただでさえ振動に弱い品種を着いてすぐ飲むなんて。
みんな家族や恋人を大切にするでしょ、ご機嫌を損ねないように。ワインのコンディションにもそのくらいの気を使って大切にしてください。

グルたま:なるほどわかりました。太田の法則その1「コンディションを大切にしろ!」ですね!

 

 

 

2.太田の法則その2「良心が伝わる街、それが銀座!」
グルたま:太田さんは、泰明小学校の卒業生ですよね。生粋の銀座っ子ですが、太田さんにとって銀座はどんなイメージですか?
太田:高級店の街ではないと言うこと、扱っているものを大切にしている専門店の集まり。
儲けようではなく、お客様に対しての気遣いや工夫が認められて、売り上げに結びつく、またそうあるべきでしょうね。

 

グルたま:先ほどのコンディションもそうですね、他には?
太田:ソムリエの仕事はお酒の飲める人に対してだけだと思われがちですね。でも飲めない人は肩身を狭くしてジュースを飲むのでしょうか。
例えば、ジンジャーエールなんか美味しいんですよ。カナダドライではなくて。
ショウガをむいておろして絞ったものに黒砂糖を加えてアクをとりながら煮る、クローブを少し入れてあげてね。これを漉してコーヒー豆を5~6粒入れて、そして、きれいな瓶などに入れて、このシロップを氷を入れてライムを搾ったグラスに、お客様の目の前で注いでさしあげる。そして、それをペリエなどで割ってさしあげれば、きっと喜んでいただけると思います。

 

グルたま:(感動!)
太田:はじめに冷たい前菜が出て次にフォアグラのソテー・・・。さて、ソムリエさん、どんな飲み物をさしあげますか?

 

グルたま:どきっ!えっと~。品種で言うとゲビュルツトラミネール辺りかと・・・
太田:オーソドックスには、さもしかりですが、ほんの少し遊び心を働かせて、ブランデーを一滴たらしたエスプレッソなんか面白いと思います。フォアグラのソテーとエスプレッソは意外と仲良しなんですよ。
他にもエビのクリームソースには冷たい牛乳やオレンジジュースが楽しいし。ブランデー1に牛乳9の優しいカクテルもいいでしょう。
あとは、水出しした昆布だしなども魚料理に合わせると気に入っていただけるかも知れません。

 

グルたま:これはお酒を飲めない方も楽しめますね。
太田:こうして楽しんでいただこうという気持ちが売り上げにつながっていく。そんなことが大切だと思います。
話は戻りますが、ワインバーでもただ仕入れたものを売っているだけで、コンディションに責任を持たなければ、それはほとんど詐欺同然でしょう。うちではブショネ(コルク臭)はお客様の目の前で捨ててしまいます。もちろん、熱劣化など状態の悪いものはお出しできませんから。当たり前のことですが、これはなかなか宣伝効果にもなっています。あ、ちなみに高額なワインの場合、状態劣化の責任がインポーター以前にあると判断した場合は、引き取ってもらいますけど・・・。

 

 

 

3.太田の法則その3「疑問を持ったらしつこく粘れ、道は開ける!」
グルたま:ところで、太田さんのワイン歴はどんな感じですか?
太田:思えば大学生の頃はめちゃくちゃ飲みましたね。何をどれだけ飲んでも平気で、ここで分かったのは、自分はお酒が強いんだっていうこと。安心していろいろ楽しみました。
はじめて美味しいなと思ったのはドイツの甘口ワイン。マリア様のお乳です。当時テレビで兼高かおるの世界の旅という番組をやっていて、この中では食事に合わせて美味しそうにワインを飲んでいるシーンがありました。しかし、それを真似てみてもピンと来るものがない。そしてある日、同じヴィンテージの同じワインを同時に2本開けて飲んだ時に、同じ味ではないことに気が付きました。それがコンディションの違いだったようです。そうです、はじめから言っていますが、「状態」というものの存在を、初めてここで認識するきっかけを持つことが出来たのです。
ここからは早かった。調べていくうちに、運んでくるコンテナで熱にやられてしまうことや、いろいろなことがわかりました。そうして24才くらいの時には納得してワインが飲めるようになって来ました。

 

グルたま:レストランで鼻が利くようになったんですね?
太田:いえいえ、お金もない頃ですから、例の銘酒辞典で、そこに載っている輸入元にかたっぱしから電話をして、個人ですがいい状態のワインがなかなかないので、そちらから買いたいと頼んだんです。ほとんどが断られましたが、だんだん話を聞いてくれるところが出てきて、良いお付き合いが始まりました。

グルたま:まさに粘りとがんばりで手に入れたルートなんですね(尊敬)、これも法則としていただきます!
太田:だからうちの仕入れ先とは、もし熱劣化でだめになったワインがあったら返却するという約束が出来ているわけです。

 

 

 

4.太田の法則その4「料理の王道はチャイニーズにあり!」
グルたま:最初にまかないのお話しが出ましたが、お料理についてもお伺いしたいんですが。
太田:飲み物に納得を求めるとしたら食べ物にも納得しなくてはね。同じようにいい状態というのはもちろんあります。
例えば、日本に輸入されている中国産のウナギは、皮が厚いし泥臭くて食べられたものではありません。でも、白ワインとショウガのしぼり汁で漬け込んだウナギをじっくりと蒸して下味を付けたものを、グリルなどにすれば、皮も泥臭さもさほど気にならなくなるでしょう。
僕は料理については、中国人を見習ってほしいと思っています。中国人の友人が言っていました。日本人は子犬を見るとかわいいと言う。でも中国人は、どう食べたら美味しいかと考える。これは何でも食べちゃうという意味ではなく、何でも美味しく食べようとする姿勢の表れです。子供を産んでいない3歳前後の雌牛のサーロインをステーキで食べたら、美味しいに決まってますよね。これはほとんど材料自慢じゃないでしょうか。例えば、農作業などに何年も何年も使用されて、疲れ切って死んでしまった雄牛でさえも、素晴らしい美味の一品に仕上げる工夫を中国宮廷料理のレシピの中に見ることが出来ます。

 

 

 

5.太田の法則その5「ブランデーは50年ものから!」

img_vol5-2グルたま:ところで、こちらにはウイスキーやブランデーがたくさんありますね。実は、先ほどから気になっていますが。
太田:洋酒についても同じことで、仕事をきっちりしましょうということです。どこにでもあるものを銀座値段と称して高額に売りさばこうとするのは、それに付随する内容のあるサービスを伴わない場合、詐欺だと言えるのではないでしょうか。そこで、仕入れやサービスに工夫をこらしたスペシャリティが大切になってきます。

 

グルたま:ちなみにこちらのスペシャルは?
太田:うちではシングルモルトは30年ものから、ブランデー・アルマニャックなどは50年もの位から提供させていただきたいと思っています。
例えば、これをお試しになってみて下さい。樽熟で50年もののブランデーです。

 

グルたま:えっ、お、恐れ入ります(嬉しい!)
太田:どうですか。

 

グルたま:なんかすごいです!こんなすごいブランデーは飲んだことがないです!

 

 

6.太田の法則その6「接客は小学4年生の言葉で!」

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グルたま:お酒とお料理のいい状態を大切にする心得について伺ってきましたが、次にお客様と接する時に心がける事は何でしょう。

太田:言葉です。意志の疎通のために必要な言葉もその人の育ってきた環境や知識で受け止められ方が違ってきます。基本は小学校の低学年でも理解しうる優しい言葉使いです。

 

グルたま:小学生!?
太田:小学4年生くらいの子が理解できる言葉を使おうとすると、専門用語は必要でなくなります。ヴィンテージという言葉も、うちの店では極力使わないようにしています。例えば、1982年もの、というように。お客様とこちらの言葉に対するイメージのギャップが出来るだけ障害とならないような話し方を心がけることです。また、それが難しければ、わざと話しの焦点をぼかして雰囲気で表現できれば、結果として意志が伝わることもあります。

例を挙げますと、シャブリの名手ラブノーや、ピュリニーの良心ヴァンサンルフレイヴ。シャブリのモンテドトネルは杉本彩さん、ルフレイヴのクラヴァイヨンは、デビュー当時の野際陽子さんにたとえて表現してみるのも楽しいかも知れません。

 

グルたま:人にたとえるのは親近感がわいて分かり易いですね。
太田:ところで、先ほどのブランデーは、ソムリエさんならどう表現なさいますか?

 

グルたま:(どきっ!また来たか)きゅーっと唇にくっついて、なじんで、あとからお酒のニュアンスが・・・。あ、感想でいいんでしたか。
太田:そうですね。僕ならね、これは香りも素晴らしいですが、蒸留酒らしいキレ味もあります。「艶やかさ一刀両断、熟女の恋は七変化」

 

グルたま:面白いですけど俳句みたいですね。
太田:こういった表現も使いこなしによっては、お店の色となってお客様にも楽しんでいただけるかも知れません。さっきのブランデーを「熟女の恋を一献所望」などとオーダーして下さるお客様がいらっしゃるかも知れません。

 

グルたま:お見それしました!
今日は数々の法則を頂戴いたしまして大変ありがとうございました。最後に皆さんにお聞きしていますが、太田さんは何座ですか?

太田:食いしんぼ・・・。9月14日の乙女座です。

 

グルたま:(う~ん、納得!) あとお店の名前の由来などは・・・
太田:ガルガンチュア物語です。巨人の王ガルガンチュアが生まれ落ちた時、その産声がアボワールアボワール(飲みたい飲みたい)と聞こえたそうです。そこで産婆がたらい一杯のワインを飲ませたところおとなしくなり、静かに産湯に浸からせた、ということです。

 

グルたま:(爆笑)ありがとうございました!

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